山菜としても知られる有用な植物として、オケラを取り上げる

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不思議な名前の「オケラ」は、古くから人々の生活に取り入れられており、特に薬理をもとに、漢方薬を構成する重要な生薬として、現在も多く使われています。最近は生息環境の減少や乱獲もあって、希少化が進んでいるようです。

1.奇妙な名前

いわゆる固有名詞というものには、とても奇妙なものが多い。

特に、動植物や昆虫について、日本人がつけてきた名称というものには、ときどき思い切り首をかしげたくなるものがあります。

以前、他のブログの記事:竜舌蘭で、呼称についての考えを書いたことがありますが、

呼称は、認識と識別のための伝達手段であり、認識と識別とは連想ゲームのようなものにほかならない。従って、呼称とは、容易な連想対象を引き合いにしているほうが、むしろ出来の良いものというべきであろう

というのが、私の持論です。

説明を加えれば、たとえばある植物について見たことも聞いたこともない人に対して、その植物を容易に連想できるような「たとえ」を混ぜた呼称というのが、出来の良い呼称であるということです。

ということで、世のなかには様々な「たとえ」を混ぜた呼称というものが存在します。

植物の呼称には、特にそれが色濃く表れており、なかでも特徴的なのは、植物の個性を表すのに、一般の日本人ならだれでも知っているような「動物」の名前を「たとえ」として用いています。

なかでも、「イヌ」「ネコ」「ネズミ」「クマ」「タカ」「カラス」「スズメ」などが、代表的な引用元となります。

ところが、困ったことに、この「オケラ」は、複数の名詞が連続したものではありません。

ただ単に、「オケラ」一語です。いや、もしかしたら、「オ」「ケラ」かもしれない、あるいは「オケ」「ラ」かも・・・

あるいは、古くは「オケラ〇〇」のようなのが正式な呼称となっていて、いつのいまにか「〇〇」が消えてしまったのかもしれません。

そうでなければ、よく知られた虫のオケラと同じものになってしまいます。

虫の「オケラ」みたいな「オケラ」。

なんか、変です。結局、この「オケラ」に関しては、収拾がつかないのが結論です。

以前読んだ、司馬遼太郎の何かの本で、地名などの固有名詞に対する推理や想像は、時間の無駄だからしない、というようなことを、氏が書いていました。

所詮、いろいろな人が、それぞれ勝手に持論を展開しているだけに過ぎないようにも思えるのですが、ただそれはそれで、中には相当の含蓄ある説もあったりして、たしかに面白いのです。

面白ついでといってはなんですが、【柳田国男監修:民俗学辞典】によれば、悪天候のときにかぶる「蓑」について、東北地方では「ケラ」と呼んでおり、藁や藤の繊維などを組み合わせて組み上げた姿が、なにか「オケラ」の花周りの造作に似ているから、ではないかと、私の持論も記載しておきます。


2.生育環境の減少

自宅近くの小山で、全体が市の公園となっているところがあります。

幼いころから、遊び通っている場所なので、いまでも時々、植物写真などを撮りに訪れているところです。

そこの「ある場所」には、「オケラ」の群生地があります。といっても、松林の斜面の、ほんの10メートル四方程度の場所です。

オケラ3
オケラの若葉

毎年、春になると、写真のような若葉が萌出て、今年も健在か・・・と安心するのですが、決して成長はしないのです。

なぜかというと、市の公園という位置づけである以上、定期的に下草刈りをおこなっています。

夏の成長の真っ盛りに刈られ、それ以降、「オケラ」は勢いを盛り返すことができずに、下葉の数枚を残すのみで、終わります。

毎年そうです。ただ、20年近い昔に、何かの都合で予算がつかなかったのか、一度だけ下草刈りが行われないときがあり、そのときに見つけた花の写真が、以下です。

オケラ1
オケラの花

もう、12月になろうかという時期だったと記憶しています。うれしくて、気が狂いそうでした。

ほんとうならば、住んでいる地域では、それなりに希少な植物ということで、せめて10年に一度くらいは下草刈りを中止してもらうことを、市に陳情しようかと思いましたが、していません。

陳情したら、すぐに噂が広まり、確実に、根こそぎなくなることが目に見えるからです。


3.薬理について

さて、この「オケラ」ですが、【週刊朝日:植物の世界】の記念すべき第1号に掲載されています。分類は、大きくはキク科に含まれますが、花の見た目は控えめで、古来より、その薬効中心に評価されています。

その根茎部分を「朮(ジュツ)」という名の生薬として採集され、燻して除湿・防カビ・蚊やりとして利用されてきているとあります。

「オケラ」の根茎から生成されるものを「白朮」、「ホソバオケラ」からできたものを「蒼朮(ソウジュツ)」と呼んでいますが、現在では、「ホソバオケラ」は佐渡島に残存している【南江堂:生薬学】ということです。

【伊沢一郎:薬草カラー図鑑】によれば、古い川柳で、「蒼朮をたかぬその日に梅を干し」というのが紹介されています。江戸時代は、「蒼朮」のほうが一般的だったようです。

薬理について、薬草カラー図鑑の記述
 蒼朮は、気味辛烈、発汗作用、解熱、胃内停水を除く
 白朮は、気味わずかに辛く苦い、健胃、食用増進

同じく、南江堂:生薬学の記述
 蒼朮は、利尿、健胃、発汗、解熱 (日本薬局方:ソウジュツ末)
 白朮は、利尿、健胃、止汗、強壮 (日本薬局方:ビャクジュツ末)

いずれも、漢方薬の重要な構成要素で、中国からの多く輸入されています。単味の生薬のまま、民間療法として、現在も使われているかといえば、そうではなさそうです。

オケラ2
オケラのつぼみ

4.食べ物としての評価

山菜として若芽を食べます。ただ、おどろくほどうまいものでもない、ということが、いろいろな書物を見ると記載されています。

昔から有名な里謡で「山でうまいはオケラにトトキ、里でうまいはウリナスカボチャ 嫁に食わすもおしゅうござる」とありますが、このことで、オケラがいかにもうまいもののように感じてしまいます。

実際にはそれほどのものでもないということのようですが、もしかしたら、自分で食べていないで、他の書物で紹介されていることを、そのまま転記しているだけかもしれません。

ということで、本来ならば、自ら確かめてみる(DIM)というのが、このサイトの方針なのですが、少ない芽出しの「オケラ」を前に、若菜摘みといった風流が実行できるか、否か。

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