身近にある有用な植物として、アカメガシワを取り上げる。

医療 食と健康

アカメガシワは、とても身近でありふれた植物ですが、古くより、整腸をはじめとする消化器系に対する薬効が知られています。

都市を離れて、すこし山沿いの道路を車で走ると、道沿いの日当たりの良い場所には、どのような植物が生えているのか、それを見ながら走るのがたのしみです。

とはいえ、おそらくどこへ行っても、だいたい同じような状況であろうとは思うのですが、そういった場所に、さまざまな種類の植物を次々と見ることができる、というような状況ではないようです。

山そのものは、そこが人によって植林され、管理されている場所であるならば、当然、単一の樹木だけが生えています。杉、檜、竹などです。

それはあたりまえとして、山裾で道路沿いの、基本的に営利目的となっていないような、せまく放置された場所において、どこまで行っても、だいたい2~3種類の同じ植物だけしか目にはいってきません。

なぜでしょうか。

特に植物中心で生態系というものを見るとき、いったん人間の手が大規模に加わった場所、つまり工事などで攪乱された場所は、いち早く根をおろす数種の植物に占有されます。

その代表となるのが、今回のアカメガシワです。

アカメガシワ1
アカメガシワの芽だし

アカメガシワを漢字で表せば、「赤目柏」となりますが、地方での別名として、「菜盛葉(サイモリバ)」とか、「味噌盛葉(ミソモリバ)」というものがあるように、過去には食料品を盛るために使ったことを、その名に留めています。柏の葉は、とても大きく、たしかに食べ物をのせたり包んだりという用途がありました。

別名についての説明は、どの文献やネット記事を見ても記述されていますが、はたして本当でしょうか。

家にいるときに、わざわざこの葉を取ってきて、菜(おかず)や味噌をのせて食事をするのか?それはまずないでしょう。

では、屋外で野良仕事あるいは山仕事をしているときはどうでしょうか。味噌もおかずも、なんらかの容器に入れて、その現場まで持っていったはずです。

わざわざその容器から出して、葉っぱに乗せますか?私なら、そんなことせずに、容器から直接食べます。

昔の野良仕事あるいは山仕事は数名単位で行い、食事はだれかが代表してまとめて運び、現場でこういった葉に盛り分けていたのでしょうか。

なんにせよ、当時の習俗まで知っていなければ、わかりようがありません。それに、いつも身近なところにアカメガシワがあったはずもなく、秋から春の寒期には、そもそも落葉しています。

まあ、名前の由来は、これぐらいにしておきましょう。固有名詞の来歴は、とてもおもしろい分野ですが、しょせんこれが正解であると断定できる人はいないのですから。

ついでに中国名では「野梧桐」です。梧桐は「アオギリ」のことです。そういわれれば、葉の雰囲気は似ていますし、樹皮も「アオギリ」のような薄緑色はしていませんが、質感はわりと似ています。日本では、見た目と用途で命名されていますが、中国では見た目中心の表現で、これもおもしろく感じます。

さて、アカメガシワの葉が茂り、やがて花が咲きます。小さくて白っぽい花が集合して咲きます。見ていても、別に美しいとも思いませんし、香りも感じません。私の実感ですが。

この白い花は雄花で、雌花のほうは丸いごろっとした子房(シボウ)のうえに、赤い角のような3本の受粉部が出ています。

アカメガシワ2
雄花(雄株)
雌花(雌株)

夏場には、こんな感じの白い集合花をつける植物は多いです。そういう意味でも、目立つ存在ではありません。雌花はもっと目立ちません。

ただし、こういった雄花と雌花が異なる株である場合、それが虫媒花である以上、雄花と雌花双方が、虫を引き寄せる何かをもっているはずです。両方の花が、ともに蜜を出しているのでしょうか?

機会があったら調べてみたいテーマです。

さて、秋に向けて結実します。種のできている姿は、ちょっと印象的です。

アカメガシワ4
アカメガシワの種

結構大粒の黒い種が3つづつできています。雌花の3本の受粉部が、そのまま子房のなかで種になったということがよくわかります。

さて、問題の「有用性」についてですが、直観的に黒い種子に、ものすごい薬効がありそううだ、とか、黒い種子を焙煎すると、極上のコーヒー代替品になるとか、考えてしまいます。

あの種子を見ると、どうしてもそういったイメージが沸いてきてしまうのですが、実は種子は全く無用の長物です。

「井沢一郎著 薬草カラー図鑑」によれば、夏に葉と樹皮を採取し、乾燥させるとあります。「南江堂 新訂生薬学」でも、使用部位は樹皮となっています。

用途としては、整腸、過敏性腸症候群、便秘、下痢となっています。整腸をうたった薬に、「便秘」と「下痢」の両方の効能がよくうたってありますが、なにか不思議ですよね。それぞれ真逆の効能であるはずなのに・・・
これは「南江堂・・・」の記載です。
一方「井沢一郎・・・」では、民間療法として胃潰瘍向けに樹皮を煎じて飲め、となっています。

では、食材としてはどうか?というと、よくある話ですが、若い芽を天ぷらにして食べられるそうです。新芽を天ぷらにすれば、なんとなく、何でも食べられるように感じるのですが、みなんさんいかがでしょうか?

できれば、油で揚げるとか、塩や醤油などの味の濃いものにつき混ぜるとかではなく、薄味に調理してもおいしくいただけるようなものであってほしかったです。

まあ、食って食えないこともない、ということです。自分としては、あの黒い種子がなんとかならないだろうかと、ひそかに思っています。

古い日本では、焙煎ということは、ほとんど行われていなかったのではないか?と考えているからです。燻したり、蒸したりはたくさんあったでしょうが。

まずはチャレンジですね。

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